ISBN:4102015019 文庫 高橋 義孝 新潮社 1951/02 ¥420

不機嫌というやつは怠惰とまったく同じものだ。
つまり一種の怠惰なんですから。
ぼくたちはそもそもそれに傾きやすいんだけれど、
もしいったん自分を奮い起こす力を持ちさえすれば、
仕事は実に楽々とはかどるし、活動しているほうが本当にたのしくなってくるものです。

今日のうちにまたお目にかかりたいと頼んでぼくは辞去した。
ロッテは承知してくれて、今出掛けてきたところなんだ。
さあそのときから太陽も月も星もぼくにはどうでもよくなってしまったんだ。昼も夜もあったもんじゃない。
全世界がぼくのまわりから消えうせて行く。

「会えるぞ」朝眼をさまして晴ればれとした気分できれいな太陽を見るとき、ぼくはこう叫ぶのだ「会えるんだ」と。
さて一日中、ぼくにはそれ以外の何の望みもあったもんじゃない。
一切合財みんなこの希望の中へのみこまれてしまう。

それから、ここでお互い同士ながめ合っている忌まわしい連中のうわべだけきらびやかな悲惨、退屈さ加減ときたら、一寸でも五分でもひとの上へ出ようとして虎視眈々とねらっている彼らの位階欲、まったくむきだしの最もあわれむべき最もあさましい欲念。−中略−どうだ、君、こんなに下劣な恥さらしができるほどに分別の浅い人間どもはぼくの理解しがたいものなんだ。

−中略−

最もぼくをいらだたせることは、この宿命的な社会事情だ。
むろんぼくだって、身分の別ということは必要であり、それが僕自身にいろいろな利益をもたらしているということは人並みに認める者だ。けれどもぼくがこの人生でまだ少々ばかりのよろこび、わずかの幸福を味わおうとするときだけは、身分のちがいなんぞにその邪魔をされたくない。


とりいそぎこれだけ。

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